2015年度  神戸医療福祉専門学校三田校

日本の生活様式を踏まえた車椅子の仕様の提案
~QOLの向上を目指して~


2015_kmwsanda

抄録

1.背景

1-1.研究の動機

車いすに対するニーズは,車いす使用者の障害や身体機能,そして生活様式,環境,人間関係などに よって様々である 1).しかしながら現状では,日常生活を自立させる目的や生活に最低限必要な移動 目的のための機能を優先し,その他の機能を犠牲にして結果的にニーズを押し込めてしまう事もある 1). 同様に Fausto Orsi Medola らは個々の車椅子使用者のニーズのために最適なセットアップで車椅子を 構成することは難しいとしている 2).押し込められているニーズの一つとして,車椅子の駆動輪やキャスターの汚れがある.わが国も都会のみならず全般的にその国際性と合理主義化,ならびに近代化 などにより,生活様式自体,次第に洋式化の傾向が強くみられているが 3)4),日本の靴を脱ぐ文化は変化していない.そういった靴を脱ぐといった独特の文化があるのにも関わらず,外出した車椅子使用者は,外出時と同じ駆動輪やキャスターで室内に入ることを余儀なくされている.その一方で近年,福祉医療技術の発達や福祉対策の充実等により,車椅子利用者の QOL も次第に改善され,外出する機会 も増えてきている 5).車椅子使用者による車椅子の問題点として外出先から室内に入った際の駆動輪やキャスターの汚れによって床に汚れが付くことが上げられ,駆動輪などの清掃には大変労力が必要であり,自身で清掃を行うことはもちろんのこと介助者が清掃することも介助量の増加の観点から見ても問題である.また車椅子は,身体的な機能と特徴に基づいて設計させており,変形などの二次障害を 予防するために使用することもあることから室内でも車椅子をした方が良い 6)しかし清掃の煩わしさから室内では車椅子を使用しない使用者も存在し,変形の助長や QOL の低下などが予測される.様々な車椅子使用者が独自で工夫し,駆動輪などの清掃を行っているが,未だ重労働であることは変わらず,介助者がいる使用者は駆動輪の清掃は介助者によって行い比較的融通が利くが,自立した独居者は駆動輪やキャスターを簡単且つ綺麗に清掃することは難しい.そのため車椅子を室内用と室外用で 2 台 使用する使用者も存在するが,問題の一つとして移乗時の車椅子事故が多い 7)ことが挙げられる.また, 経済的な問題から 2 台所有が難しいことも少なくない.以上を踏まえ,独居者が車椅子一台で室外から 室内へとより簡単にそして綺麗に入れること,同居者がいる者に対しては介助量の軽減を目的とした提案をしたいと思い本研究に臨むに至った.