抄録
本論文の要旨
生体内において肝臓は、栄養の代謝や貯蔵などの高次機能を担っている。これらの機能は特殊な細胞によって構築されると考えられ、密度勾配遠心法やFACS法など様々な手法で分離されてきた。しかし、従来の方法によって分離した細胞は、別々のディッシュに培養し、評価を行う必要があった。本研究では、これら分離操作を円滑に進めるため、スライドガラス上に 30,000 個の孔がある培養器具の開発を行った。
通常、培養ディッシュには細胞接着の足場となるコーティングがされている。しかし、スライドガラスのコーティングにスプレー方式を試みたが、コーティング剤の粘性度が低く処理できなかった。そこで、グリセロールやゼラチン溶液の濃度を高め、スプレー可能となるまで粘性度を持たせた。ここで、これらコーティング剤が細胞の接着と増殖に影響することが考えられたため、コーティング剤の評価系を構築した。また、実験には扱いの容易な HeLa 細胞を用いた。接着に関しては、コーティング剤をディッシュ上に塗って、継代 24 時間後に 1 cm2 あたり、接着した細胞数を計測した。一方、増殖については、直径 2.5 mm 円内の細胞数を経時的に観察し、その増加率を算出した。その結果、評価した中ではゼラチンが最も適切なコーティング剤であることがわかった。
これらの知見を基に、100 個の孔がある培養スライドガラスを作成し、実際に細胞の試験培養を行っており、現在検討中である。最後に、生体内にある肝臓の細胞についても培養できるか検討を行った。その結果、ポリ-L-リシンでコーティングを施したディッシュに最も接着した。
本研究で導入した評価系は、様々なコーティング剤を検討する場合に非常に有効であった。また、開発した培養スライドガラスは、多様な細胞集団に対する生物学的研究やスクリーニングなどに活用できるかもしれない。