抄録
要旨
フタル酸エステル類はプラスチックに柔軟性を与え、加工しやすくするために添加する可塑剤として工業的に広く使われている。しかし、この物質は成長の抑制、精巣の萎縮など人体にとって不可逆的な影響を与える危険性があり、環境への放出と、人体への影響が懸念されている物質である。またこの物質は環境ホルモンの疑いももたれている。そこで我々は、現在分離されているフタル酸工ステル類分解菌とは異なり、より高い分解能を持つ菌株を環境中より単離し、分解能を調べ、分解能の高い菌株について同定することを目的とした。
本研究では、フタル酸エステル類の中でも環境庁の平成 14 年内分泌撹乱化学物質問題検討会において優先してリスク評価に取り組むべき物質として指定されており、分解菌が発見されていないフタル酸ジ-n-ブチルを対象とした。さまざまな場所から採取した土壌を生理食塩水に懸濁し、炭素源をフタル酸ジ-n-ブチルのみにした三種類の培地(アルブミン培地・土壌抽出培地・ビタミン培地)に塗抹し、28℃ で 3 週間培養した。得られたコロニーを単離し、フタル酸ジ-n-ブチル入りの培地と入ってない培地で選択した。選択したコロニーの分解能を HPLC によって調べ、顕微鏡観察、グラム染色、細胞壁分析によって同定をおこなった。
比較的高い分解能を示した 12 菌株のうち細胞壁のペプチドグリカンのジアミノピメリン酸(DAP) 異性体分析の結果、5 菌株は meso-DAP を含有し、3 菌株は不明であった。残りの 4 菌株は LL-DAP を含有し、気菌糸の形態的特徴からストレプトマイセス属であると推定された。得られた菌株のうちの 2 菌株でフタル酸ジ-n-ブチル分解能の測定を行ったところ 4 時間で 50% 分解した。
キーワード
フタル酸ジ- n- ブチル、微生物分解、放線菌